大判例

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大阪高等裁判所 昭和28年(ラ)113号 決定

およそ、仮処分は、単に権利の保全のために仮の緊急処置を講ずるに過ぎないものであるから、仮処分決定に対して異議を申立た場合、一時的に応急措置を講じて仮処分の執行停止をする本来の必要性がないのみならず、若し執行停止を許すとすれば、仮処分制度による保護の目的を滅却するに至る点に鑑み、一般的に原則として執行停止は許されないというべく、唯、具体的になされた仮処分の内容が、権利保全の範囲にとどまらず、その終局的満足を得せしめ、若くはその執行により債務者に対し回復することのできない損害を生ぜしめる虞あるような場合に、例外として民事訴訟法第五〇〇条第五一二条の類推による執行停止が許されるに過ぎないものと解すべきところ、記録によれば本件仮処分は、「被申請人等は、本案判決確定迄別紙物件目録記載の動産を譲渡、質入その他一切の処分をしてはならない。申請人の委任する神戸地方裁判所所属、執行吏は右別紙物件目録記載の物件につき被申請人等の占有を解き物件所在地から申請人の指示する場所若くは指示なきときは執行吏の適当と思料する場所に之を搬出寄託の上占有保管しなければならない」というのであつて、その内容は、目的物件の処分禁止とその占有保管を執行吏に移すことにあつて、物件の搬出寄託に関する部分は、単に執行吏の占有保管の方法を定めたに過ぎなく、総じて権利保全の範囲を逸脱し終局的実現を招来する内容のものでないことは明らかであるし、又右仮処分の執行により債務者たる相手方等に対し、回復することのできない損害を生ぜしめる虞あることを疏明するに足る資料もないのみならず、又かような損害発生の虞は、該仮処分の内容からみて、通常はこれを認め難いから、本件仮処分は、執行停止が許される前記例外の場合に該当しない。従つて、本件仮処分中前記物件の搬出寄託に関する部分について、執行停止を求める相手方等の申請は、訴訟法上許されないし、又これを許容した原決定は違法たるを免れない。

もつとも、民事訴訟法第五〇〇条第三項によれば、執行停止の申請についてなされた裁判に対する不服申立を禁じているが、本件の如く、本来許されない申立を許容した裁判に対しては、右の適用がなく、なお不服申立を許すべきであること民事訴訟法第四一一条の精神に照して明かであるから、本件即時抗告の申立は適法なりというべく、又その理由があること右説示のとおりである。

よつて原決定を取り消し、相手方等の本件執行停止の申請はこれを却下すべきものとし、抗告費用につき、民事訴訟法第八九条第九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 吉村正道 大田外一 金田字佐夫)

抗告の理由

一、本件仮処分執行停止決定は神戸地方裁判所尼崎支部に相手方三名が昭和二十八年(モ)第三〇〇号仮処分異議の申立をなしたことを理由とするものであるが仮処分決定に対する異議申立を理由としてその執行を停止し得ることは許されないものである。

即ち本件の根拠は(一)請求異議の場合に適用せられる民事訴訟法第五百四十三条第五百四十七条の準用か。(二)上訴再審等に適用せられる同法第五百十二条第五百条の類推適用であると思はれる。

二、而して請求異議の規定が仮処分に適用なきことは言うを俟たぬところであり五百十二条五百条の準用も判例が之を許さざることは勿論、次に詳述する如く理論上も之が準用は全く許されないとこころと言はねばならない。

即ち仮処分は本案訴訟による権利保護の遅延がもたらす債権者の権利実現の有名無実化と債権者の自力救済の禁止との矛盾を解決し社会正義の実現を図る目的を以て特に法律に於て認められた権利保全制度であると共にそれが権利の終局的満足を招来するものではなく、権利保全に必要な仮定的措置にとどめて債権者対債務者の均衡を維持している点に鑑みれば仮定的措置にすぎぬ。仮処分決定の執行を更に停止する必要性はなく、かくては債権者の権利保全の道は之を求め得べくもなく法の認めた債権者保護のための仮処分制度はその立法趣旨を没却し実効のない制度と化するであろう。

惟うに再審上訴或は請求異議の訴の提起ある場合に執行停止の規定あることは権利の終局的実現阻止のための一時的応急措置として誠に意議あるものと云わねばならなぬが之を以て直ちに趣旨の全く相反する権利保全のための仮の緊急措置にすぎぬ仮処分決定にも同条を準用できるとすることには全く根拠がないと断ぜねばならない。(大審院昭和四年六月九日決定新聞三〇三五号一四頁参照)即ち仮処分決定は「性質上直ニ其ノ執行ヲ為スコトヲ得ルモノニシテ特ニ仮執行ノ宣言ヲ付スヘキモノニ非サレハ仮執行ノ宣言ヲ付シタル裁判ニ付規定セラレタル執行停止ニ関スル民事訴訟法第五百十二条第五百条ハ仮処分ニハ其ノ適用ナキモノトス」

以上の理由により本件仮処分執行停止決定は明らかに違法であつて直ちに取消されるべきものである。

三、尚昭和二十三年三月三日最高第一小法廷決定及び昭和二十五年九月二十五日最高大法廷決定が仮処分における執行停止につき極めて例外的には同法第五百条の類推により執行停止をなし得る場合のあることを認めているけれども之は前述の原則に対する例外と云うよりは寧ろ仮処分執行自体が仮処分の限界を逸脱し終局的満足を与えるに至り最早仮処分決定に対する異議の申立で仮処分決定の当否を争い得る余地を残さない程明白に違法なる場合(例えば一回給付により権利の終局的満足を得させるが如き仮処分)を指すものと解せられ仮処分がその限界を守り適法である限り例外は認め得ないものと云つて過言ではなく、かく解してこそ前述各最高裁判例の結論は合理的理由をもつものである。然るに本件執行停止決定により取消された仮処分決定第二項について言えば目的物件を債務者より取り上げて債権者の占有保管に委ね以て権利の終局的実現と同一の結果を招来するという如きものではなく同物件はあく迄も執行吏が保管するものであり債権者はたゞ現状のまゝの保管が困難である点を考慮し保管すべき場所を指示するにすぎず、執行吏が適当と思料する場所に於て保管するのは執行機関としての執行吏の当然の職務であるから之を以て債務者の回復不能を招き債権者権利の終局的満足を計る執行と云えないこと明白である。

よつて以上いづれの点よりするも本件仮処分停止決定は違法失当と言う外ないのである。

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